以下も同じくレビューではない。財布なくした人間の絶望日記である。なお結果はハッピーエンドです。
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2018年7月21日16:36
カラオケまねきねこで一人カラオケ。世の憂いから逃避することに酔うかのごとく歌う。この時点でおかしくなる傾向あり。
同18:30
某店で水煙草とレッドブルを頂く、検定試験合格記念だ。この気の緩みが絶望への一歩であった。
同19:45
某所で餃子を食べつつアードベッグのロックを煽る。スモーキーなウイスキーにジューシーな餃子の肉がたまらない。なお、アードベッグは度数46度の酒。先の水煙草とレッドブルとの会わせ技で間違いなくボディーブローを決めてきた。
同20:30
三軒目のバーでバラライカ、T&T、アラスカと飲んでこのときはまだ財布を取りだし支払う意思能力はギリギリあった。
同23:30
店から出たら急に自分の事理弁識能力も意思能力も崩壊したような感覚に教われた。要は酩酊状態になる。まるで焦点距離より近いものを望遠レンズで見ているかのような、万華鏡を覗くように世界が揺れる。点字ブロックを頼りになんとか歩く。
同24:30
タクシーに乗る。倒れ息を荒げていたのは克明に覚えている。この時点で財布を擦られていることに気づく。絶望が確定した。
同25:00
小銭を別の場所にあったのでそちらで支払い降りる。カバンの中身を道路にぶちまけて中身を確認する。
「スマホ、祖父からもらった時計、合格証…ある。zippoとアークロイヤルと財布がないってことか…。」
ここから財布がないという事実がどういう意味かに頭が少し回る。
「クレカとCD…再発行…健康保険証の再発行…即ち職場に伝わる。定期券紛失…これからどうやって通勤するんだ。」
さらに絶望…
「小銭の残りは213円、帰宅できないなこれ…suicaもないし」
堰を崩したかのごとく涙が止まらなくなる、会社での自分も私生活の自分もどうしようにもない人間なのを実感し、自分を支えていた全てが崩壊した。思えば近くには広瀬川がある。
「もう嫌だ、死んでやる!」
と号泣していたのは鮮明に覚えている。20分くらいその場で泣き崩れてたのかなぁ。飽きるまで泣いたと思う。よく通報されなかったと感心するくらいの運の良さだ。
同日26:00
酔いがさめてどうにか事理弁識能力が回復してきた。道路に散らかした所持品を片付けつつスマホの懐中電灯であたりを確認する。
「さて、キャッシュカードとクレジットカード…止めなきゃ…」
これ以上損害を増やさないために回らない頭を回して考えた。キャッシュカードは深夜受付分として止めてもらい、クレカは停止及び再発行依頼をした。
「止めましたので、後日新しいカード送付します、再発行手数料は1050円ですのでよろしいですね」
まぁ良い勉強代にはなったと諦める。そこから電話をしながら再度一番町付近に徒歩で向かう、飲酒に伴う異常なまでの水分不足と深夜の暑さで再度倒れそうにもなりつつも一番町までたどり着く。さすがに財布は見当たらない。戻っては来ないだろう…。僅かな希望も潰えもはや歩く気力も起きず路肩にうずくまり深夜の広瀬通を埋め尽くすタクシーのテールランプが織りなす蜻蛉を眺めて絶望に浸る。
ここまで何とかしたが所持金がないので帰宅することもできない。ここから自宅まで歩いたら間違いなく10時間以上は掛かる、泥酔からようやく回復したような人間にそのような体力はないのである。
「今までどうにか警察の保護と救急搬送からは逃れられたが、もはやこれまでか…」
形態の電池の残量は残り6%、110・119一回するのが精いっぱいであろう。僅かなる意識で私は覚悟を決めようと決心をしかけた。
「もはや身の安全などどうでもいいか…寝よう。最後に親に連絡してみよう…どうせ起きないだろうけど」
まどろみに落ちかける意識の中で最後の力を振り絞りダイアルをする。奇跡か、出た。恥を凌いでありのままを伝えた。
父「ばかかおめぇ、死ね。ただし迎えに行くまではくたばるなよ、言いたいことは山ほどある」
ということだ…。どうやら帰宅は出来るようだ。それだけで安心して待ち合わせ場所まで歩こうとするがもはや限界、10分間ほど落ちた。また起きて最後の力を振り絞り歩く、ひたすら歩いた。距離的には大したことはない。交差点三つ分ほどの距離、いつもなら10分かからない。コンビニで最後の手持ちでミネラルウォーターを買って飲んだ。
「味のない冷たい水、これだけのことに生の実感を感じるとは」
コンビニから出て歩くがもうだめ、歩けない。また意識が飛びそうになる、倒れそうになる最後に見た景色は、父親がたいそうな顔しながら車から降りてこちらを見ている姿であった。乗り込んだ後からは意識が飛んだ。
同日28:30(2018年7月21日4:30)
車に乗り15分ほどして自然と目が覚めた。ひどい悪心と催吐感に襲われつつも何とか言葉をひねり出そうとしたとき、
「しゃべらんでいい、俺が言うことだけ聞いてろ」
そこから先はまぁ当然ですよね。ぐちゃぐちゃいろいろ言われました。
「おめぇは結局今の職場で生きる覚悟も転職する覚悟もないしょうもない状態だからそうなるんだ。酒飲んで環境はよくなるのか」
飲んで解決しない。職場にいる人間への憂いを酒とともに飲みほすくらいならば、それを改善する努力をした方がよっぽどましであること位判断はつく。でもそれが出来ないくらいに憂いはたまっているのである。自分が蒔いた種であることだから諦めればいいのだが、私は弱い人間なので合理的判断が出来ない。
助けてくれる人なんていないのだ、だから自分で自分を助けようと努めてるつもりだ。だけど助けようにも調べても出てこない、前例を調べようにもファイルがない、(以降禁則事項)、もはや辞めたい。職場の人間にこいつは負け組と言われてもかまわないからこの苦痛から解放してほしいと希うばかりだ。もう心が死にかけている。
車の中でメールを確認すると母親からもメールが来ていた。
「アホ」
この二文字だけだったが、大層堪えた。乾いた笑いすらも出てこない。
「おめぇ腹減ってないのか」
「食べたいのは山々だが体が受け付けそうにない」
「だったら大丈夫だな、しばらく苦しんでろ」
「あぁ…」
しばらくして自宅近所の風景が視界に入る。自宅に帰れることがこれほど幸せなのかと狂喜した。帰宅後、父から
「酔いがさめたら言いたいこともある、それに証明書類の再発行、自分で責任とるんだな」
と言われたがとにかく体を横にしたい一心で二階に向かい、ベッドに倒れた。
2018年7月21日12:30
暑さで目が覚めた、ひどい悪心と吐き気は収まりそうにもない。冷蔵庫へ走りウーロン茶を一気飲み。昨日の忌々しい記憶を、口に残る不愉快感とともに捨てることを望むかの如く歯を磨く。高温の部屋で水分不足の人間が寝ているわけなのでおそらく軽い脱水症状にはなっていただろう。シャツにしみてる嫌な汗が自分の愚かしさをまざまざを突き付けてくる。家には自分以外誰もいなかった、斬鬼の念でいっぱいな私にはありがたかった。もう一杯水を飲み、またまどろみへ堕ちてゆく。
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職場で笑われている自分がいる。
「社会人が酔って財布なくすとか、お前今の業務する資格ない」
周りの嘲笑にただ謝り倒す自分自身がいた。
「もう十分苦しんだ、赦してほしい」
「お前消えれば許されると思ってるの?お前はこの職場から消えてようやくトントンなんだよ。消えるなら損失補ってから消えろ」
「ほら、有給あげるから免許証再発行してきな、もっとも身分証明書がほかにあればな」
きゃはははははは
不愉快な「ほほえみ」が耳に残る。
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2018年7月21日16:30
嫌な夢見だった。どうにか物理的な悪心は収まったが、精神的な面で気持ち悪くなった。
そう、健康保険証も運転免許証も無く、個人番号カードを発行していない、印鑑登録もしていない私には、今自分自身の素性を証明するものを何一つ持ち合わせていないのだという恐怖に気づいた。確かに戸籍には登録されてはいるが、それを証明できないのであれば、自分は戸籍のない人間になったといっても過言ではない。
「自分は、カード一枚無くしたら身分を社会に示せない、そういう世界で生きているんだな、今の自分は社会というシステムから照合をしえない「無」だ」
この宙に浮いた不安感。これほどの恐怖はほかにない。今後どうするかという恐怖もあったが、もし自分の周りの人間が「私を知らない」と述べたら、自分の今までの人生がすべて私の実態から切り離される。そうなったら自分はいったい何を持って自分と判断できようか。人はポリス的動物と大昔の大家は述べたそうだが、それをこれほど実感したことはない。人は人の中で人格を形成できる、面識という曖昧なものだけで活動は出来ないから、最低限の照合ツールとしての身分証明書があるのだ。
これを失ったことで自分の実存が消滅するような錯覚…いや厳然たる事実にぶち当たり、虚無に見舞われた。ツイッター…ネットの世界のみが自分の世界になった。あそこはIDとPWを暗記してログインできれば、その事実が自己同一性を証明してくれる。これほどツイッターで自己を確かめたことはない。
「自分の実存を何としても取り戻さなければいけない」
ここからは身分証明書の再発行方法を調べた、残念ながら一式無くしているのでその日は動けない。面識という最後の良心に頼み込み健康保険証を再発行してもらわなければ動けない。やはり絶望が襲う。あらゆる方法を考えたが思いつかなかった。
だから最後にダメもとで交番に電話した。
「あぁーXXさんの財布ね、某所交番に届いてるよ」
私の実存はいまだ仙台にあった。半狂乱になりつつも電話で内容を聞き、今すぐ取に行くと伝える。私は自分の部屋にあった小銭箱から電車賃をかき集め、再度仙台へ入場した。
2018年7月21日19:00
さらにバス乗り継ぎで届け出のあった交番へ向かう。この時点で全財産10円という社会人にあるまじき状態になるがなりふり構ってられるか。交番に入り内容を話すと、(以下内容は念のため割愛)、目の前に間違いなく自分の財布がある。
自分の実存を取り戻した瞬間であった
そのあとはなか卯でうどんと親子丼食べて、たばこロフトながせで煙草買って一服して31アイスクリームダブル食べて気持ち悪くなって帰宅しました。なお、二日酔いは月曜になっても収まらず、執筆している今もすこぶる気持ち悪いです。いろいろ教訓はあるが、
「卵は一つの籠に盛るな」
「酒は飲んでも飲まれるな」
「だらしねぇのなんとかしろ」
こんなとこでしょうかね。あと、当たり前すぎて気づかないことにこそ自分を支える重要なものであること。これ忘れないほうがいいかもですね。
Fin
P.S.
めったに予約取れないお気に入りの予約取れたので土日のどちらかで遊んできます。